2026/10/20交流活動
泌尿器・後腹膜腫瘍科医師3ヶ月研修所感:国立がん研究センター中央病院
王 之澤 浙江大学医学院附属第一医院 泌尿器外科
今回、私は国立がん研究センター中央病院(NCCH)泌尿器・後腹膜腫瘍科において専門研修を修了し、日本を代表する泌尿器腫瘍診療施設における臨床診療、低侵襲技術、人材育成および人間性を重視した医療体制について体系的に学びました。多くの学びを得ることができましたので、以下に研修を通じて感じたことをまとめます。
NCCHは日本を代表するがん診療機関であり、中央病院の泌尿器・後腹膜腫瘍科は、泌尿器腫瘍および後腹膜肉腫診療の中核的施設として明確な役割を担っています。前立腺がん、膀胱がん、腎がん、副腎腫瘍、精巣腫瘍などの泌尿器・後腹膜領域の腫瘍に加え、VHL病や後腹膜肉腫などの希少・難治性疾患も診療対象としています。2025年度の年間総手術件数は390件で、中国国内の同レベルの三級甲等病院の泌尿器科で年間数千件の手術が行われている状況と比べると、手術規模は相対的に小さいといえます。このことから、手術件数と診療体制について、日中双方には異なる特徴があることを実感しました。中国では、膨大な人口を背景に受診需要が大きく、外来診療と手術には業務の標準化・大規模化という特徴が比較的明確に表れており、1日当たりの手術予定も過密になりがちです。一方、NCCHの泌尿器・後腹膜腫瘍科では、1日当たり通常1~2件の手術が予定され、多くの場合は17時までにその日の手術を終えています。そのため、一人ひとりの患者の診療と各手術に比較的十分な時間が確保でき、きめ細かな診療を重視し、診療件数のみを唯一の評価指標とはしていません。
低侵襲技術の面では、同科は2012年にダビンチXiやSPなど複数機種の手術支援ロボットを導入しました。前立腺全摘除術はほぼすべてロボット支援下で行われており、腎がん、膀胱がん、腎盂・尿管がんなどの主要な術式も、ロボット支援による低侵襲手術が中心となっています。すべてのロボット支援下手術が公的医療保険の対象であり、一般的な給与所得者の場合、高額療養費制度の適用後、複雑な手術1件当たりの自己負担額は約4,100人民元相当まで抑えられます。手術手技の標準化の水準には強い印象を受けました。術中におけるDVCの繊細な処理、三層式の膀胱尿道吻合、側方靱帯の神経血管束の温存には成熟した標準手順が確立されており、術後の尿禁制や性機能など、患者の生活の質に関わる指標が重視されています。術後フォローアップのデータも整備されており、局所進行前立腺がんに対するロボット支援下手術後のPSA無再発率は63%に達しています。この結果は、精緻な手術が長期生存上の利益をもたらすことを十分に示しています。また、凍結療法などの低侵襲な腎温存治療にも取り組み、高齢、基礎疾患が複雑な患者に対して、リスク層別化に基づく個別化治療計画を策定しています。
多診療科チーム(MDT)による連携は、同科の中核的な強みの一つです。腫瘍内科、放射線治療科、病理診断科、ゲノム関連部門、希少がんセンターと継続的に連携し、毎週、難治症例の検討会を定期的に開催しています。進行性・遺伝性泌尿器腫瘍や後腹膜肉腫に対し、手術、分子標的療法、免疫療法および放射線療法を組み合わせた治療方針を統一的に策定しています。また、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)、日本泌尿器腫瘍グループ(JUOG)などによる全国規模の多施設共同臨床試験に深く参画するとともに、First-in-Human(ヒト初回投与)試験による新薬研究を継続的に実施しています。2023~2025年にはSCI収載国際誌に複数の論文を継続して発表しており、臨床研究とトランスレーショナル研究を並行して推進しています。希少がん登録、バイオマーカー、全ゲノム研究の体制も整備され、臨床上の課題を研究へと結び付けています。
体系的な医師養成制度は、中国でも参考にすべき点があります。日本の医師のキャリア形成には、明確な要件に基づく一連の評価制度があります。2年間の必修初期臨床研修と3~5年間の専門研修を経て、所定の症例を十分に経験し、全国統一試験に合格することで、初めて専門医資格が取得できます。さらに、医師として5年以上勤務し、難度の高い手術経験を蓄積するとともに、教育・研究実績を満たすことで指導医として認定されます。同科のチームメンバー全員が、日本泌尿器科学会専門医および指導医の資格を有し、複数名がダビンチ手術の公式プロクター資格を取得しています。指導は穏やかで受容的です。定型的な手術ではレジデントが執刀し、指導医が手術中を通じて立ち会いながら指導しますが、安易に術者を交代することはありません。チーム内の協働も円滑であり、医師と患者、医師と看護師のコミュニケーションでは相手の気持ちへの配慮が重視されています。「ありがとうございます」「すみません」といった礼節ある言葉が、診療のあらゆる場面で交わされていました。
今回の研修で最も深く考えさせられたのは、医療における人間的配慮の側面です。中国の臨床現場では、高負荷で診療が流れ作業化しやすいという課題が広くみられます。外来での診察時間は限られ、多数の手術によって患者とのコミュニケーションに充てる時間が圧迫されるため、病変への対応に重点が置かれ、患者を全人的に支える視点が十分に行き届かないことがあります。これに対し、NCCHでは初診予約には3~14日を要し、複雑ながん手術では待機期間が最長3か月に及ぶものの、医師と患者のコミュニケーションは十分に確保されています。術前説明は丁寧かつ包括的で、手術のリスク、術後の回復、機能への影響が漏れなく説明されています。診断後に不安を抱える患者や、術後に自信を失った患者には、心理面を支援する医師やストーマケアを専門とする看護師が継続的に寄り添います。同科では「医療に携わることは自らを磨く修行である」という考えを大切にしています。手術件数の増加を追い求めるのではなく、一人ひとりの患者に腰を据えて向き合い、一つひとつの手技を慎重に行い、不安を抱える患者一人ひとりに寄り添うことで、科学技術と人間的な温かさとの調和を図っています。これは、中国の臨床現場でも今後さらに重視し、向上させていくべき点だと感じました。
また、日本の国民皆保険制度は患者の受診時の負担を軽減しています。医療保険制度によって患者の自己負担が効果的に抑えられる一方、待機期間の長さは明らかな課題です。中国の診療や手術は効率性に優れる一方、医療資源の偏在、患者の経済的負担、医師の過重労働など、早急に改善すべき問題があります。双方にはそれぞれ長所と短所があり、互いの優れた点を取り入れることができると考えています。
今回の研修を通じて、今後の臨床業務における改善の方向性が明確になりました。第一に、手術手技の精緻化を進め、とりわけロボット支援下手術における機能温存技術を向上させ、標準化された吻合・止血手順を確立することです。第二に、層別化に基づく個別化治療を充実させ、高齢または高リスクの患者に対して、アブレーションや分子標的治療などの低侵襲な選択肢を拡充することです。第三に、MDTを恒常的に運用し、泌尿器腫瘍領域における先端的な臨床試験の動向を継続的に把握することです。第四に、診療の進め方を見直し、高負荷な業務の中でも患者とのコミュニケーション時間を増やし、患者の心理面と術後の生活の質を重視することです。第五に、学生の育成と指導を重視し、手術の実践、理論教育、人間性に関する教育のバランスを取ることです。
今後は、NCCHで学んだきめ細かな診療、人間性を重視した医療、体系的な人材育成の先進的な経験を自らの臨床に生かしていきます。中国の豊富な症例数という強みを基盤としながら、診療が流れ作業化しやすいという課題を改善し、診療の効率性と医療の温かさを両立させ、確かな技術と共感に満ちたケアによって、患者により質の高い医療を提供していきたいと考えています。

泌尿器・後腹膜腫瘍科の皆様との記念撮影

ダビンチ手術研修の記念写真