2025/12/18交流活動
消化器内科医師9か月研修感想:国立がん研究センター中央病院
邵 暁娜 寧波市医療センター李惠利医院 消化器内科
私は、寧波市医療センター李惠利医院消化器内科の副主任医師として、所属病院の「杏林行者」奨学金の支援を受け、2024年12月より日本国立がん研究センター中央病院(NCCH)にて9か月間の研修を行いました。内視鏡科入科後は、斎藤豊科長のご指導のもと、消化管早期癌の内視鏡診断および治療について体系的に学ぶとともに、週 1 回開催される英語による Colorectal Cancer Conference では症例報告を担当する機会にも恵まれました。また、院内申請および審査を経たうえで、厚生労働省に申請し、消化管内視鏡の操作に関する外国医師臨床修練資格の承認を受けました。更に、第一著者としてまとめた症例報告が国際学術誌 Endoscopy(IF 12.8)に採択されるなど、臨床・研究の両面で大変貴重な経験を積むことができました。
1.細部へのこだわりが生む信頼──医療者と患者をつなぐ「静かな力」
NCCH の検査フローは、極めて簡潔でありながら実に効果的です。検査前には担当看護師が手順を明瞭に説明し、医師は自ら名乗って一礼したうえで診療を開始します。患者・看護師・医師の三者で本人確認を行い、その後に操作へ移行するというプロセスが徹底されています。通常の内視鏡検査では鎮静を用いず、医師・看護師が「声かけ―操作―感謝」という一連のプロセスを丁寧に行い、患者は覚醒状態であっても不安を感じにくい点が印象的でした。検査終了後には、患者に重要な点が簡潔に伝えられ、今後の方針も明確に示されます。この一貫した流れは、過度な話術に頼らずとも患者に「尊重され、理解されている」という安心感を与え、業務フローと態度が一体となって実現しているものだと感じました。中国国内の外来負荷の高さを考えると、完全な導入は容易ではありませんが、「事前説明・適切な声かけ・フィードバック」という三つの要素は十分に標準化・プロセス化し得ると感じました。
2.エビデンスからガイドラインへ──多施設共同研究がもたらす効率的なフォローアップ
NCCH は多くの医療機関の臨床研究を主導すると同時に、外部研究にも積極的に参画し、長期的なフォローアップによってリアルワールドデータを蓄積し、その成果をもとにガイドラインの改訂を推進しています。たとえば早期胃癌では、腫瘍径 3 cm 未満・分化型・粘膜下浸潤 500 μm 以下といった症例に対し、多施設データに基づきフォローアップ方針が従来の eCureB から、より簡素化された eCureA へと見直されました。これにより患者負担の軽減と医療資源の最適化が図られており、その効果を現場で実感しました。印象的だったのは、ナショナルセンターとして、単に主導的役割を担うにとどまらず、外部の研究課題にも積極的に参加し、統一された適格基準と厳密なデータ品質管理のもと、再現性・汎用性の高い結論を導き出している点です。ガイドラインの発展には、単一施設の高度医療だけでなく、地域に広がる協働ネットワークと、比較可能で検証可能なデータが不可欠であることを改めて強く認識しました。
3.MDT の常態化:討議によって不確実性を“消化”します
内視鏡科では上部・下部にチームを分け、週例カンファレンスで ESD 予定症例の術前プレゼンテーションを行っています。白色光、NBI に加え、インジゴカルミン/ヨード/クリスタルバイオレットなどの色素内視鏡画像を順に提示し、拡大所見と合わせて浸潤深達度、病変範囲、診断根拠を多角的に検討します。その後、疾患部位に応じて外科チームと合同でディスカッションを行い、食道は食道外科、胃・十二指腸は胃外科、大腸は大腸外科が担当します。必要に応じて画像診断や病理の意見も加え、エビデンスを補強します。また、月例の「内視鏡―病理レビュー会」では、所見が一致しなかった症例を対象に、当時の内視鏡判断と切片を照合し、相違の要因を明確にしています。このような「術前の合意形成―術中の役割分担―術後のレビュー」という循環が、個別化治療方針の妥当性と再現性を一層高めています。
4.謝辞と今後の展望
外国人医師として日本で中長期の研修機会を得ることは決して容易ではありません。このたび無事に研修を開始し、充実した日々を過ごすことができたのは、日中医学交流センターの皆様より、言語・ビザ・宿泊などあらゆる面で多大なご支援を頂き、日本側医療機関との調整にもご尽力いただいたおかげです。こうした確かなサポートがあったからこそ、海外でも臨床と研究に専念することができました。今回の研修を通じて、「標準化」「協働」「振り返り」こそが、経験を再現性のある能力へと昇華させる鍵であると改めて実感しました。帰国後は、外来や内視鏡室での診療において研修で得た知見を実践するとともに、研究課題およびフォローアップを通じて臨床に還元できるエビデンスを蓄積し、専門性と誠実さをもって患者さんに貢献していく所存です。今後も、消化内視鏡の質の高い発展に寄与できるよう努めてまいります。
研修記念撮影