2025/05/09交流活動
消化器医師3カ月間研修所感【がん研有明病院】

胡睿東
成都新華病院 消化器内視鏡センター長
成都新華病院消化器内視鏡センター長として、私は2024年9月から12月までの3カ月間、日中医学交流センターを通じて、がん研有明病院肝・胆・膵内科で研修する機会に恵まれました。今回の研修では、胆膵疾患の内視鏡診療技術(ERCP、超音波内視鏡及び関連する低侵襲穿刺、チューブ留置、ステント治療等)に焦点を当てるとともに、日本の医療システムにおけるヒューマニズム的理念や管理面についても深く学びました。私自身の専門背景と現地での体験を踏まえ、研修の成果を以下にまとめます。
がん研有明病院は、消化管がん治療の分野において世界的なリーダーであり、内視鏡センターの技術の標準化と精緻さは非常に印象的でした。肝胆膵内科での研修期間中、特に以下の技術に重点的に取り組みました。
1.1 ERCP技術の精密な操作
日本の医師は、乳頭挿管の角度コントロール、超微細ガイドワイヤーの回転操作、結石除去のテクニック等において、標準化されたプロセスを確立しています。例えば、複雑な肝門部胆管狭窄症例や、消化管再建後の複雑な症例では、術前にCT/MRCP画像を用いて3D解剖計画を立案し、術中はX線透視下で器具の方向をリアルタイムに調整します。さらに、術後には定期的に肝内胆管の2~3次分枝まで造影を行い、ドレナージの通過性を確認します。この「術前計画―術中検証―術後再確認」のクローズドループ管理により、合併症の発生率が大幅に低減されています。
1.2超音波内視鏡(EUS)の多角的応用
胆膵領域における超音波内視鏡(EUS)は、単なる腫瘍の病期診断にとどまらず、胆膵管閉塞の原因鑑別にも活用されています。私は、EUSガイド下での細針生検(FNB)と、迅速細胞診(ROSE)を組み合わせた診療モデルを見学しましたが、この手法により、陽性診断率は90%以上に達していました。さらに、EUS下肝胃吻合術(EUS-HGS)や、EUS下総胆管十二指腸吻合術(EUS-CDS)では、医師がプローブの角度を調整することで「ワンステップ」でのステント留置を実現しており、高度な解剖学的知識と空間認識能力を目の当たりにしました。
1.3多領域の連携による技術革新
肝胆膵内科は、外科、IVR、病理科と密接に連携し、MDTを構築しています。毎週火曜日のカンファレンスには、担当医師が英語のPPTを用いて症例報告を行い、腫瘍と血管の関係を手描きの図で補足説明しています。さらに、難治性症例は3D画像を用いた多角的な検討が行われます。このエビデンスに基づく協力体制により、内視鏡治療と外科手術のシームレスな連携が可能になっています。
2.医療システムの強み:病院機能による診療とヒューマニスティックなケア
日本の医療システムは、きめ細かな役割分担と患者への配慮が診療プロセス全体に浸透しており、深く考えさせられる点が多々ありました。
2.1病院機能による診療で効率的な医療を提供
地域のクリニックと大病院の間には明確な役割分担があります。一般的な消化器症状の患者は、まず地域のクリニックで受診し、腫瘍の疑いがある場合や精密な内視鏡検査が必要な場合には、紹介システムを通じてがん研有明病院で診療を受けます。この制度により、医療資源の無駄を防ぎつつ、複雑な症例に対する迅速な診断と治療が可能になっています。
2.2ヒューマニスティックなサービスの実践
物理的環境:診察室には高さ調整可能な診察台や恒温洗浄設備が備えられ、待合室には母子室や祈祷室が設けられる等、多様な文化的ニーズが尊重されています。
プライバシー保護:番号呼び出しシステムが採用され、従来のアナウンス放送は廃止されています。患者は院内で自由に過ごしながら診察を待つことができます。また、検査時には医療スタッフがカーテンで周囲を遮り、他者の視線を防いでいます。
心理的サポート:病棟には読書コーナーや瞑想スペースが設置され、化学療法中の患者がリラックスしながら治療を受けられるようになっています。さらに、栄養士が毎日患者の病状に応じたメニューを作成し、ベッドサイドまで配膳する等、細部にわたる配慮が行き届いています。
まとめ
今回の日本での研修は、単なる技術習得にとどまらず、医療の本質について深く考える貴重な機会となりました。がん研有明病院の経験が示すように、卓越した医療サービスには、精密な技術、緻密な管理、そして誠実なヒューマニスティック的配慮が不可欠です。
最後に、がん研有明病院肝胆膵内科の指導医の皆様及びスタッフの方々に心より感謝申し上げます。また、研修の手配や生活面での支援をしてくださった日中医学交流センターの皆様にも深く感謝いたします。今後は、この研修で学んだことを自身の医療チームに還元し、同業の先生方に、中国における消化器内視鏡診療の標準化と国際化の推進に貢献していきましょうと呼びかけたいと思います。